ソウゾウセカイ

Ivyと申します。ここでは主に小説を書いたりしています。コメントや★を付けていってくだされば嬉しいです。※小説には過激な内容が含まれることがあります。思いつきで書いているので、矛盾している点が多いです。そのため、過去の記事を書き換えることがあります。ご了承ください。

冒険者達の記録書 第67話 2人の男の夜

Reg
「来たわね」
 夕食が終わった後。レージェの部屋に来ると、レージェはもちろん、ローディンもいた。彼は銀髪に紫の目、そして本来よりも男性的な顔立ちに姿を変えていた。
「なんです、我々をこんなところに呼び出して?」
 ふぁあ、とローディンは欠伸をする。女王の部屋を「こんなところ」呼ばわりするのは、きっと彼ぐらいだろう。
「明日のことについて、それから、ブレイジアについて聞いておきたいことがあってね。」
 レージェはローディンを見る。
「ローディン。あなた、ブレイジアの事、知ってるでしょ?」
 絵の具で塗ったような紫色の目を明後日の方向へ向け、「ええ」と答えた。
「それを貴方が知っているということは、本当に私の作品を見てくださったのですねぇ。ありがたい限りです。」
 作品?どういう事だ?
「私は、主に『伝説の地ブレイジア』の景色や生き物を描いていたのですよ。これが意外に金持ちや聖職者らにウケてしまいましてね。」
 やれやれとでも言うように、ローディンは手をヒラヒラと振った。
「ブレイジアの!?……それはお前が自分で考えた、架空のものなのか?」
「架空かどうか、と言われてもハッキリとした答えは出せませんねぇ。幼い頃、よく夢を見ていたのですよ。ブレイジアに来ている夢をね。それを絵にしていただけなのです。なので、ブレイジアについて知りたいなら私の話を聞くよりも色々と調べた方が確実かと。ああ、そういえば。確か、ここの博物館の館長に絵を何枚か売った気がしますね。もしかしたらその博物館に飾られているのでは?」
 それは良いことを聞いた。明日、博物館に行ったら探してみよう。
「あまりお役に立てず、申し訳ございません。ご用はこれで全てでしょうか?」
 もうすでに帰ろうとしているローディンを、レージェは呼び止める。
「明日はどうするの?」
「明日、ねぇ。恥ずかしながら、お金があまりないのです。着の身着のまま出ていって、ここで何もせず過ごしていたのでね。なので、金儲けでもしながら調査をしましょうか。」
「金儲け……何をするのよ?」
「アイツ……ヘラーノはああ見えても商人でして。私の持ち物を売ってもらおうかしらと思っているのです。」
 ローディンは服のポケットから手帳を取り出す。
「くすっ、画家の鉛筆画が詰まった手帳です。高く売れそうでしょう?昔同じようなことをして、絵を描いたハンカチ1枚が200万イティぐらいで売れましたからね。まぁ、しばらく食っていけるだけの金は稼げるかと。……それよりも。いいのですか、彼を放っておいて?」
 ローディンは俺を見る。ああそうだ、とレージェは手紙のようなものを俺の前に出した。
「美術館と博物館の許可証よ。これで一般人でも見られないような展示品も見られるわ。」
「ありがとう、レージェ。」
「……それと」
 彼女は少し声を潜める。
「あなた、明日は姿を隠して行きなさいよ。自分がすごく目立つ格好だってこと、分かってる?」
「えっ?」
「えっ?じゃないわよ。その真っ青な髪と目!いくらファッションの国メディステールでも目立つわ!」
 彼女は先ほどまで声を潜めていたのも忘れて怒鳴る。
「あっ、これか!」
 俺は1つに束ねていた自分の髪を掴む。確かに俺の髪は藍で染めたような青色だ。そして目は……左目は黒で、右目の色は髪と同じ青なのである。いわゆるオッドアイだ。ちなみに、これらは遺伝である。俺の双子の弟であるロンドはもちろん、叔父も父も目と髪の色は同じだった。我らギルガ家の先祖がニュンフェ族の者だったらしいが、それが原因か?とにかく、この髪と目をどうにかしなければならないな。
「目はともかく、髪をどうにかしないと。髪染めはあるけれど、髪の色をすぐに元に戻すのは難しいわ。」
「そこまでして隠す必要はない。大きめの外套1つあれば十分だ。」
「分かった。それも明日用意させるわ。」
「そもそも、何故姿を隠す必要があるのです?堂々と街中を歩くことはできないのですか?」
「……色々と、難しいのよね」
 ローディンの質問に、彼女は苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「もしや、テノール……『15番』が関係しているのでしょうか?」
「その通りよ。あの娘がカルリエッタの牢獄でしてきたことはもうすでに噂になってるの。ここに逃げてきた、カルリエッタの他の囚人が中心となって広めているそうよ。『アイツに出会ったら自分たちも殺される』って口を揃えて言っていたわ。」
「あの娘も相当奴らのことを恨んでましたからね。殺されるまではいかなくとも、出会ってしまえばただでは済まないだろうというのは間違ってませんねぇ……。」
 ローディンはくつくつと笑う。何がそんなにおかしいのかと問おうとしたが、まともな返事が返ってくるとは思えないのでやめた。
「……それはともかく。あの娘に対するイメージはあまり良いものではないわ。あの娘と共に行動している者……特にレグ、あなたもよ。あなたと『15番』について、変な噂ばかり飛び交っているの。『ギルガ家の長男が悪魔の女にたぶらかされている』だとか、『ギルガ家の長男が愛玩用の奴隷としてカルリエッタの囚人を捕らえた』とか……。その噂を聞いて、ギーバの住民がロンドの家に殴り込みに行ったって話も聞いたわ。」
「なっ……!」
 それを聞いて、思わず体が動いた。
「まあまあ落ち着きなさいな。悪い話ばかりでもないわよ。『グレーディオの火事を消してくれた』っていう話もそれなりに広まっている。あの娘が本当は良い子だってことを世間が分かってくれる日はそう遠くないわ。」
 その言葉に俺は胸をなで下ろした。
「……だが、俺のせいでテノールやロンドが悪く言われるのは耐えられん。どうにかできればいいのだが。」
「噂話はさすがに私やあなたでも扱えないわ。とにかく、明日はなるべく目立たないようにすることね。あなたも、『15番』……テノールちゃんも。」
 俺は頷いた。
 
 レージェの部屋を出た後。俺達は風呂に入り客室で寝る支度をしていた。明かりの灯らぬ簡素なシャンデリアの代わりに、机に置かれた大きなランタンが部屋を照らしていた。
「まったく、どうして私の所にこんなむさ苦しい野郎が来るんですかねぇ。部屋が狭く感じますよ。」
 俺達が泊まる時に、ある問題が生じた。部屋が足りないのだ。仕方なく、俺はローディンと同じ部屋で寝ることになってしまった。
「悪いな、ローディン。一緒の部屋で寝ることになっちまって。」
「別に構いませんが、私はソファで寝かせていただきますよ。ベッドが離れているとはいえ、貴方のような大男の近くで寝るなんてごめんです。」
「お前も俺と同じくらいの身長じゃないか」
 ローディンはソファに座り、どこから持ってきたのか、きつね色のマドレーヌを食べる。バニラの甘い香りが広がった。……腹が減る匂いだ。
「あげませんよ」
 俺の視線に気付いたのか、彼はマドレーヌを隠した。どうやら、彼はかなりの甘党のようだ。夕食のデザートも美味そうに食べていたし、ミクによると、昨日はテノール氷菓子を作るよう頼んでいたそうだ。
「それ、どこから持ってきたんだ。」
「ミクからいただいたのです。気晴らしにメイド達とお菓子作りをしたが、作りすぎたそうで。」
 もぐもぐとマドレーヌを食べながら、彼は左手で何かを掴んでいた。
「そういえば、レグ?コレは何でしょうか?」
 ローディンは左手から小さく折り畳まれた紙を出す。黒い塔のローディンの部屋から俺が持ってきたものだ。
「人の部屋に勝手に入った挙句に盗みを働くとは感心しませんねぇ。まぁ、これは元々貴方の家のものですから、人の事は言えませんが。」
「す……すまない」
「それで?コレに興味があるんでしょう?」
 紙の束を開き、最初のページをめくる。そこには「ギルガ家の魔術」と書かれていた。
 ギルガ家に伝わる、魔法について書かれた書物。その書物は古代のブレイジアの文字で書かれていたそうで、ローディンはそれを俺達の家から持ち出し解読し、この紙の束に書き写したのだそうだ。
「そういえば、何冊かそんな感じの本があったな。変な文字で書かれてて、全く読めない本が。あれが古代ブレイジアの文字だったのか……。何でそんなものが我が家にあったんだ?」
「貴方の家のご先祖さまがブレイジア人……つまり、ニュンフェだったのでしょう。貴方のその青い髪もご先祖さまから受け継いだものなのでは?」
 確かに、ギルガ家の先祖はニュンフェだと言われている。ルギの話だと、ニュンフェ族=ブレイジア人と考えて間違いないようだ。だったらあの本は俺達の先祖が所有していたものなのだろうか?
「読んでみます?」
 ローディンはニッコリと微笑む。俺は頷く。ランタンの光を頼りに、俺は紙を覗き込んだ。
 
「……なるほど」
 どうやらローディンが持ち出した本は、「レリィ」という男の日記のようだ。彼はルギと同じくアレン・ルデュークの弟子で、ルギのことを『若くして不老不死の魔術を会得した、将来有望な同僚』と称していたようだ。そんな中で、俺は気になるものを見つけた。日記の最後に書かれたこの記述だ。
『あの男がそんな事を企んでいたとは。あの魔術が完成してしまえば国が、いや世界が危機に晒される。あの男を王にしてはならない。何としてでも止めなければ。』
 この記述を最後に、日記は終わっている。
「……残念ですが、ここで日記のページが切れたようですね。」
 「あの男」とは、アレン・ルデュークの事だろうか。レリィとやらも彼の企みに気付いていたのか。続きはもしかしたら俺の家に置いてあるのかもしれない。帰ったら探してみよう。
「……」
 ランタンの火が消えた。中の蝋燭が燃え尽きたのだ。今日はもう遅い。俺とローディンはそれぞれ自分の寝床に潜った。