ソウゾウセカイ

Ivyと申します。ここでは主に小説を書いたりしています。コメントや★を付けていってくだされば嬉しいです。※小説には過激な内容が含まれることがあります。思いつきで書いているので、矛盾している点が多いです。そのため、過去の記事を書き換えることがあります。ご了承ください。

冒険者達の記録書 第68話 博物館

Reg
 次の朝。朝食を終えた俺達は、それぞれ外に出る支度をしていた。
「レグ。レグも準備できたのか?」
 テノールがとてとてと歩いてくる。姿を隠すためだろうか、彼女は黒い外套を身に付け、化粧もしていた。
 傷付いた真っ白な肌はペールオレンジの化粧で綺麗に隠れていた。ほんのりと薔薇色に色づいた頬が何とも愛らしい。
「どう?私の手にかかればこんなもんよ!」
 隣でレージェが胸を張る。どうやら化粧は彼女が施したようだ。
「凄いな、まさかお前にこんな特技があったとは……。」
「なんか馬鹿にされてる気がするけれど、いいわ。気にしない。……ああそうだ。はい、レグの分。」
 焦げ茶色の布を手渡される。薄く軽い素材で出来た外套。これを着て大きな鏡の前に立つ。よし、俺の青い髪もちゃんと覆うことが出来そうだ。昨日用意してもらった服と合わせると、なんだか盗賊や傭兵のような服装に見える。
「レグもカッコいいな!剣とかしゅって出して戦いそう!」
 ルギも同じような事を考えていたのだろうか、剣を構えるような真似をしていた。
「あんなんではしゃいじまって……お子ちゃまだねぇ」
 ヘラーノはニヤニヤしながらこちらを見ている。ローディンは手帳に何か書き込みながら適当に相槌を打っている。
「よし、できた。今日の『商品』だ。」
 ローディンは手帳をヘラーノに渡す。ヘラーノはそれをペラペラ捲る。その顔はだんだんと驚愕の表情に変わっていく。
「えっ?……何お前こんなお宝さらっと生み出しちゃってんの??」
「どれくらいで売れそうなんだ?」
「1000万イティでも足りないくらいだ。下手すりゃその倍ぐらいぼったくれるかもしれねぇぜ。ここの金持ちは財布の紐が緩いからなぁ。」
「こんな落書き帳1冊で1000万?チョロいなぁ」
 2人は顔を見合わせて悪どい笑みを浮かべている。1000万イティの価値がある手帳とはどんなものか。俺は彼らに近寄った。
「そんなに凄いのか?」
「さて、どうでしょう?見ます?」
 そう言われたら見るしかあるまい。俺はその手帳を覗き込んだ。
「……す、凄いな」
 そうとしか言いようがなかった。そのページに描かれていたのは、1枚の葉の絵。本物の葉を色だけ抜いてそこに置いたように見えて、思わず触りそうになってしまった。精巧で、それでいて無駄な線が一切無いリアルな絵。このような絵があと何十ページもあるのかと思うと、それを黒い鉛筆1本で描いてしまう彼に一種の畏敬の念を抱いた。
「さて。私達はそろそろ行くとしましょうか。」
 ローディンは立ち上がる。が、少し足を押さえたのを俺は見逃さなかった。
「怪我は大丈夫なのか」
 そうだ、彼は足に怪我を負っていたはずだ。
「ええ。心配は無用です。これを売るのはヘラーノに任せて、私はすぐにここに戻るつもりですから。」
「最初は一緒に行く予定だったが、やっぱ無理させらんねーからなぁ。その怪我負わせちまったのオレだし。」
 ヘラーノも立ち上がる。2人はそのまま部屋を去っていった。
 
 それから少し経って、俺達も城を出た。今はこうして街中を歩いている。街は花壇やオブジェなど、きらびやかな物で溢れていた。
「すごいね、フロー村やギーバとは大違い……あっ、テノール!見て見て、化粧品専門店だって!」
 ミクは化粧品の店や仕立て屋を見て目を輝かせている。テノールもミクの指さす方向をじっと見ていた。やはり2人とも女の子だな。
 俺はこちらに危害を加える者がいないか辺りを見回していた。ここは大都会で、ここの人達にとって俺達は外国人で田舎者。いつ盗っ人に狙われるか分からないのだ。すでにこちらをチラチラと見ている怪しい者が1人2人いたが、俺が睨むとどこかに逃げていった。
「よし、着いた!!」
 ルギは目の前の建物を見上げる。2つ並んだ大きな建物。今日の目的地である、博物館と図書館だ。まずは博物館に入ろうと、入館の手続きをとった。
 
「館長がいない?」
「はい、申し訳ございません。」
 職員は申し訳なさそうに頭を下げる。レージェから貰った許可証を館長に見せようと思ったのだが、あいにく館長は出かけているようだ。
「近くでゲリラオークションがあるそうで……。出品されているのが画家ローディン・ベルフィスの画集だと聞いて、飛ぶように出ていってしまいました。」
 今朝ヘラーノが言ってたやつか。どこかの質屋にでも入れるかと思っていたが、まさかオークションを開くとは。
 館長がいないなら仕方がない。一般の作品を見よう。俺達は奥の部屋へと進んだ。
 
 少し進むと、「錬金術時代」と書かれた看板があった。目当ての展示品はここにあるに違いない。俺はその部屋をゆっくりとまわることにした。
「……」
 ルギは展示品を見上げて動かない。目の前には、よく分からない文字が刻まれた大きな石版が。
「オレの名前……ほら、『ルギ・テーネ』って!他に……レリィ、ユウリ……メリーサ!これ全部人の名前だ!オレ、この文字読めるよ!」
「そ、そうなのか?俺にはよく分からんが……」
 「メリーサ」はもちろん、「レリィ」という名前も聞き覚えがある。昨日ローディンに見せてもらったあの紙の束。それに確かにその名前が書かれていた。
 他にも錬金術時代の物はある。注意深く見ていこう。
 
 興味深い展示品はいくつもあった。だが、「ブレイジアの魔術」に関するものは見つからなかった。
「これではただの観光ではないか……」
 そう落ち込んでいた時だった。先程の職員がやってきて、「館長が戻ってきた」と言ったのだ。すぐに俺達は館長のもとへ向かった。
 
「いやぁ、待たせてしまったねぇ!」
 館長はかなりご機嫌だった。
「今朝オークションがあるって聞いたんだ。しかも出品されているのはかの有名なローディン・ベルフィスの画集!知ってるかね?ローディン・ベルフィスはルフェーリアの貴族の家に生まれた『祝福の子』、いや『奇跡の子』でね。伝説の地ブレイジアにいる神のお告げを頼りに絵を描いたと言われ、15歳の頃から『奇跡の地』『生ける屍』などの数々の名画を生み出し……」
 館長は咳払いをする。個人的に気になるからもう少し聞きたかった。
「……とにかく、私はこの画集を手に入れたのだよ!帰りの馬車の中で少しペラペラとめくってみたがそれはそれは素晴らしくてね!4000万イティ払った甲斐があったよ!」
「4000万!?」
 思わず声が出てしまった。確かヘラーノは「1000万イティで売れる」と言っていなかったか?それほどの「商品」を作り上げたローディンはもちろん、それを予定の4倍の値で売ったヘラーノにも類まれなる才能があるのだと尊敬せざるを得なかった。
「……ええと、それで。『特別資料室』に入りたいのですが。」
 館長に許可証を渡す。「特別資料室」とは、その名の通り一般人は見ることが出来ない特別な資料が置いてある部屋だ。その資料の閲覧を、機嫌の良い館長は快く許可してくれた。
 
「……」
 特別資料室に入る。ここには博物館と図書館両方の資料があるそうで、左に展示物、右に本棚が並んでいた。
 その中で大きな絵が目に入った。『学校』と題された、奇妙な形の建物の絵。窓の外を見ているようなリアルな絵。その絵の右下には、拙い字で「Roadin Belphys」と書かれていた。
「……」
 ミクとテノールはじっくりと展示物を見ていた。ルギは……本棚にいるようだな。
「ルギ?」
 彼は目を輝かせて本を読んでいた。やっと欲しいものが見つかった、というように。
「その本がどうかしたのか?」
「……」
 俺の声も聞こえていないようだ。後ろからその本を覗き込んでも、先ほどの石版に刻まれていたような変な文字で書かれていて全く読めなかった。
 
 結局、「ブレイジアの魔術」に関する資料は見つからなかった。それほどアレン・ルデュークがその魔術の研究を秘密裏に行ってきたのか、それとも残った弟子がその魔術の資料を消してしまったのか……。……そういえば、本棚はまだ調べていないな。もしかしたら何かあるかもしれない、とそこに向かおうとした時。
「ん?これかいお嬢さん。これはねぇ……」
 館長はミク達に何やら説明している。彼女らの前には水晶のような玉が。
「どうしたんだ?」
「ねえねえ、聞いてレグ!この水晶玉、ブレイジアにあったんじゃないかって言われてるんだって!」
「この玉が?ずいぶんと磨り減っているようだが……」
「これは占いの道具に使われたのではないかと私は思っているのだよ。ただの推測だがね。……それに、これに触ると力が湧いてくるように感じるんだよ。触ってみるかい?」
「えっ、いいんですか!?」
「どうぞどうぞ。」
 ミクは恐る恐る水晶玉に触る。
「……本当!なんだか元気になったみたい!テノールも触ってみようよ!」
「わ、私は……いい。壊しちゃいそう。」
 テノールが断り、ミクは俺に目を向ける。俺も触ってみようか。俺は人差し指でそっと触れた。
 ……その瞬間。ハンマーで殴られたような衝撃が指先から頭まで走った。
『赤い目は殺される。』
 響くような低い声が聞こえる。たまらず俺は指を離した。
「レグ?」
 テノールは俺を赤い目でじっと見つめる。……そうだ、この娘は赤い目をしているのだ。そして、さっきの声は何と言っていた?「赤い目は殺される」と、そう、言って……。
「……テノール
 不吉だ。あまりにも不吉すぎる。俺は震える手で彼女の手を握った。
「どうしたんだ?」
 ルギが本棚の陰から姿を現す。ミクが何か言いに行ったようだが、そんなことはどうでもいい。何故あんな不吉な声が聞こえたのか。気になって気になって仕方がなかった。
「る、ルギもどうしちゃったのか?」
 テノールの声ではっとする。ルギは水晶玉に触ったまま微動だにしない。もしかして彼も同じような声を聞いたのだろうか。俺はルギを見た。
「……」
 彼は黙っている。何があったと訊ねる前に、彼はバッと顔を上げて明るい顔でこう言った。
「オレ、やるべき事が分かったかも!!」