ソウゾウセカイ

Ivyと申します。ここでは主に小説を書いたりしています。コメントや★を付けていってくだされば嬉しいです。※小説には過激な内容が含まれることがあります。思いつきで書いているので、矛盾している点が多いです。そのため、過去の記事を書き換えることがあります。ご了承ください。

『A』 第14話 市場

Neal
 市場はいつもよりも人が少なく、寂しい感じがした。多分、この前のストレンの事件の影響だろう。
「ここに来るのも数日ぶりだなぁ。」
 ふとアルバを見ると、彼女は黙り込んで何かを考えているようだった。
「アールバっ」
 彼女の肩を叩く。きゃっと可愛らしい声を出して彼女はオレを見た。
「何考え込んでるんだ?」
「えっ、あ、昼ご飯をどうしようかと考えていたんだ。ニール、何か食べたいものはあるか?」
「何でもいいから腹いっぱい食べたい。あー、でもまだまだそんな贅沢なんかできないよなぁ。」
 あーだこーだ言いながら、アルバを観察する。……本当は昼飯のことなんか考えていなかったんだろう。もっと深刻な事を考えていたに違いない。
 今みたいに、たまに彼女は暗い表情をする。何かに苦しんでいるような、怯えているような、そんな表情だ。記憶を失くして何も分からず、不安になっているのだろうか。それとも、何かつらい事でも思い出してしまったのだろうか。詳しい事はオレには分からない。だけど、彼女がとにかく苦しんでいるということは分かる。何があったときつく問い詰めても余計に彼女を苦しめてしまうだけだ。だとしたら、オレ達に出来ることは……彼女に優しくすることぐらいだ。なるべく暖かく接してしてあげよう。それで少しでも彼女の不安が消えると良いのだが。
「あっ、ニール!」
 聞き覚えのある声。見ると、皮製の質素な鎧を着たディーと鉄の甲冑に身を包んだ男がいた。多分、あの男はゼノンだろう。
「ニール、家でじっとしてるんじゃなかったの?」
「買い物ぐらいさせてくれよ。家に食いもんがないんだよぅ。」
 言ってくれたら買ってきたのに!とディーは頬を膨らませる。
「……」
 ゼノンはアルバをじっと見ている。
「ぜ、ゼノン?」
「ディーから聞いたぞ。あの時ストレンを倒したのはやはりお前だったのだな。何故言わなかった?」
「……すまなかった。ニール達に心配をかけたくなかったんだ。」
 アルバは申し訳なさそうに言う。心配かけたくないとか、そんな気を遣わなくたっていいのに。
「まあまあゼノン、そう責めてやるなって。」
「しかし、もし彼女が最初から言ってくれていれば……」
 まいったな、ゼノンは説教が長いんだ。なんとかして話を逸らしたい。オレはディーに目を向ける。彼は小さな木箱を持っていた。
「ディー、それは?」
「これはね……」
 箱を開けるとトカゲが4匹ほど入っていた。
「うげ、えっ何だコレ、トカゲ?」
「うん。そこの森で捕まえてきたんだ。」
 トカゲはもう一匹のトカゲに噛み付き、もぐもぐと食べている。食われているトカゲは暴れながらも、同じように他のトカゲに噛みついている。箱の中は甘い匂いのする黒い液体で汚れていた。……隅っこには餌として用意したであろうミミズが転がっていた。
「共食いしてるじゃないか。」
「共食い?……あっ!ホントだ!ゼノン、これって……。」
 急に慌てるディー。ゼノンは落ち着き払った様子でディーから箱を取り、早足で歩いていく。
「研究室へ持って行こう。」
「うん!ごめんニール、また後で!」
 ディーも小走りで去っていった。
「なんだったんだ?あれ。」
「さあ?」
 アルバと顔を見合わせる。ディーが帰ってきたら聞かせてもらおう。
「そんなことよりも飯だ飯。買いに行くぞ!」
 アルバの背中を軽く押し、オレは1歩踏み出す。彼女もつられて歩き出した。
 
 買い物を終え、オレ達は家に帰り昼飯を食べた。
「ごちそうさま。美味かった!ありがとうな!」
「……」
 アルバは暗い顔をして中身の残った器をスプーンでかき回している。……その暗い表情の原因は、恐らく。
 買い物をしていた時の事。店員や道行く人々が彼女をジロジロと見ていた……気がしたのだ。いや、第三者であるオレでも気付いたのだからきっと気のせいではないだろう。彼女もそれに気付いていたらしく、「何か粗相をしてしまっただろうか」と申し訳なさそうに呟いていた。
「気にすんなって!まだここに来たばっかりなんだし仕方ねぇよ!」
 オレはアルバを元気づけようと声を張る。彼女は「そうだな」と微笑んだ。だが、飯を食う手は止まったままだ。
「アルバ。あのな?つらかったらつらいってちゃんと言ってくれ。一緒に暮らしてるんだし、な?」
「……うん。ありがとう。でも、今は大丈夫だから。」
 苦笑いを浮かべる彼女に、オレは何も言えなかった。
 
「ただいま……」
 ディーが帰ってきた。……なんだか元気がない。
「すごく疲れたよ~……」
「おうおうどうしたディー。何かあったか?」
 ディーは大きなため息を吐く。
「さっきトカゲ見せたでしょ?あれが巨大化してストレンになっちゃったんだ。ゼノンがすぐ倒してくれたけど……。」
「ストレンに?」
 ディーは縦に首を振る。
「この前の事件で巨大化したトカゲが紫の森から来たって聞いて、そこの入り口付近まで行って怪しそうなのを何匹か捕まえてきたんだ。そしたら予想通り巨大化しちゃって。」
 紫の森……アルバが倒れていた場所か。アルバをちらりと見ると、彼女は首を傾げていた。……そういえば、彼女にはまだあの森の事は話していなかったな。
「紫の森ってのはこの街の東にある森で、その森の奥には、吸うと気が狂うと言われている『毒の霧』が立ち込めているんだ。……お前、その森の入り口で倒れていたんだぞ。紫色の土や植物が衣類に付着していた事から、森の奥まで行って帰ってきたところで倒れたんだろうとオレは考えているが……。」
「気が狂う、ねぇ。」
 アルバは低い声で呟く。
「その森の奥まで行って無事に帰って来た者はいるのか?」
「奥まで行って帰って来られた者はごく僅かだ。それに……帰って来た者は皆、数日も経たないうちに狂い死んでいる。」
「……」
 アルバはまるでオレたちの顔色を窺うように、しばらくオレとディーの目を見ていた。
「皆、死んでしまっているのか。……私だけが生きているという事についてはどう思う?」
「そりゃあお前、運が良かったんだよ。何もかも忘れちまったっていうのは残念だったが……。」
「……」
 アルバは再び黙ってしまった。
「アルバ?どうしたの?」
「……何でもない」
 彼女は笑顔を作る。
「ディー、夕飯出来てるから食べようか。とりあえず手を洗っておいで。」
「う、うん」
 パタパタとディーは走っていく。アルバは貼り付いたような笑みを浮かべていた。
 
 
 次の日、街中にて
 
「兵士様がトカゲ病になってしまったんですって。」
「ストレンの血を大量に浴びてしまったそうね。鎧でも防げなかったらしいわよ。」
「ストレンの体液は猛毒だっていう噂は本当だったのね。」
「この前の居住区の事件の時だって、兵士様がたが手袋を何重もしてストレンの死骸を回収なさったそうよ。」
「まぁ恐ろしい。……そういえば、その事件でストレンを倒した女性も返り血をたくさん浴びてしまったそうね。」
「あらいやだ。私、その女性を昨日見たわ。倒れるどころかピンピンしてたわよ。一体どういう事なのかしら。」
「そういえば、私、聞いた事があるわ……」