ソウゾウセカイ

Ivyと申します。ここでは主に小説を書いたりしています。コメントや★を付けていってくだされば嬉しいです。※小説には過激な内容が含まれることがあります。思いつきで書いているので、矛盾している点が多いです。そのため、過去の記事を書き換えることがあります。ご了承ください。

冒険者達の記録書 第72話 騒がしい朝

Reg
『……それでね、僕は考えたのさ。僕らギルガ家の者は魔法が全く使えないわけじゃなくて……ねえ聞いてる?』
 誰かが俺の肩を叩く。目の前にはロンドがいた。
『ああ、聞いてるさ……ふぁあ』
 俺は大きく口を開けて欠伸をする。まったく、コイツの話はややこしいんだ。
『もう。せっかくあの石の新しい可能性を示してやろうと思ったのに。』
『はいはい。聞くだけ聞いてやるよ。』
 とにかく今は眠たくて仕方がない。ロンドの話をBGMにして俺は再び目を閉じた。
『いいかい?君が剣に加工したりしているこの石は……』
 
 ひどく懐かしい夢を見た。ずっと昔、ロンドが魔術に興味を持ち始めた頃の記憶だ。
 周りには隠していたが、ロンドは幼い頃から好奇心旺盛だった。特に歴史や魔術に興味を持っていたらしく、昔は彼の為によく書物庫まで行って資料を持ち出してきたものだ。
「……」
 俺はベッドの横に置いていた剣を掲げる。素材が石なので衝撃に弱いが、この前ヘラーノと戦った時にはどうにか耐えてくれた。耐久性は上がっているようだな、改良を重ねた甲斐があった……と考えながら、視界はその剣の刃を捉えていた。この剣の刃には、青い水晶に似た石を使っている。だが、その耐久性は水晶なんかと比べ物にならないほど強い。一体この素材は何なのか。ロンドはだいたいは見当がついていたようだが……。
「今度訊いてみるか」
 こんな事を言っている場合ではないが、ギーバに帰るのが楽しみになってきた。
 起き上がって辺りを見回す。ソファの上ではローディンが手足を伸ばして寝ている。ソファからはみ出た手足はぶらんと垂れ下がっている。腰が痛くなりそうな寝相だ。
 閉じた窓からは僅かな光が洩れていた。夜が明けてすぐ、といったところか。いつもならこの時間に起きて支度やら剣の素振りやらしているのだが、城にいる間はそのような勝手な事はできまい。二度寝しようとして布団を被っても、完全に目が覚めてしまって眠れない。何をしようか悩みながら、窓を開けて外を眺める。
「……」
 窓の外にはメディスの街が広がっていた。夜が明けたばかりだというのに、もう人々で賑わっていた。さすが大都会だ。
「まだまだ少ないですね。」
 背後で声がする。振り向くと、ローディンが立っていた。
「ああ、起きてきたのか。」
「ええ、たった今ですが。おはようございます。」
 おはようと返し、再び街に目を向ける。
「以前はこんなものではなかったはずです。もっと大勢いたはず……やはり、この前の事件の影響でしょうか。」
 この前の事件……街中のトイフェル族の人々が凶暴化し、城に押しかけたという事件か。暴れたトイフェル族は罪人としてではなく「患者」として身柄を確保され、再発防止のための研究に協力してもらっているそうだ。その他にも、同じような事件を恐れて引きこもる人々もきっと増えただろう。
「しかし、トイフェル族の奴らも災難だな。訳も分からず身柄を拘束されるとは。郊外の空き家に収容されているんだろう?」
「ええ。飯が美味いしダラダラ過ごせる、むしろここから出たくないと評判のようです。」
「そ、そうか」
 予想外の返答に少し戸惑ったが、好待遇で迎えられているならば良かったと思う事にした。
「……?」
 その時、何か悲鳴のような音が聞こえた。
「何か聞こえなかったか?」
「ええ、聞こえましたね。悲鳴、でしょうか?」
 互いに顔を見合わせていると、更に声が聞こえてきた。
「ごめんってお嬢ちゃん。逃げないでくれよぉ。」
「何でヘラーノがここにいるのか!?」
 ヘラーノとテノールの声だ。ローディンは顔を手で覆い、「何やってるんだアイツ……」と呟く。彼女がヘラーノに何かされているのかもしれない、と思い、俺はすぐに部屋を出た。
 
Hellarno
 テノールは起きてオレを見るなり、悲鳴をあげてベッドの隅っこに逃げてしまった。
「ごめんってお嬢ちゃん。逃げないでくれよぉ。」
「何でヘラーノがここにいるのか!?」
 テノールはキャンキャン喚く。
「とりあえずさ、話だけでも聞いてくれねぇかな?オレだってお前の部屋に入りたくて入ったワケじゃねぇんだよ。」
「……」
 彼女はこちらをじっと睨んだまま、頷いた。
「夕べの事は覚えてるかぁ?」
「ゆうべ?何があったのか?」
 やっぱり昨日の事は忘れちまってるみたいだ。
「お前さ、廊下に出てフラフラ歩いてたんだよ。『おかあさんがまってる』とか言ってさ。それをオレが捕まえて、見張ってたってワケ。」
 彼女は目を見開いて、「そうだったのか」と呟いた。
「その、お母さんって……」
「メリーサだろうなぁ。」
 彼女をそんな風に操る事が出来るのはメリーサくらいだ。
「ヘラーノ。ありがとう、止めてくれて。……それと、ごめんなさい。」
「どういたしまして。別に気にするこたぁねぇよ。慣れてるからなぁ。」
「慣れてる?」
 彼女は首を傾げる。しまった、余計な事を言っちまったか。彼女を見ると、不思議そうな目でオレを見つめている。……言うべきか……。
「何をしている」
 ドアが開き、レグとローディンが入って来た。レグは眉間にシワを寄せ、ローディンは呆れたように目を伏せている。
「あーあ。こんな小さい娘にも手を出して……」
「出してねーよローディン!誤解だ!」
「……」
 レグはオレには見向きもせず、テノールのそばへと向かう。
「何があった?」
 彼女は震えながらも、口を開く。
「ゆうべ、私が廊下で歩いてたらしいの。『おかあさんがまってる』って、私、そう言ってたんだよね?」
 テノールはオレを見る。オレは頷いた。
「だからコレはヤベェって思って捕まえて見張ってたんだよ。襲おうとしてたワケじゃねーぞ。」
「はっ、どうだか。」
 レグはそう吐き捨てる。レグとテノールの2人にはずいぶんと嫌われちまっているようだ。
「何でオレこんなに嫌われてるワケ?どう思うよローディン。」
「僕に話を振るな。日頃の行いが悪いからに決まってるだろ、この女ったらし。」
 しかし、とレグ達にも聞かせるようにローディンは続ける。
「もしヘラーノの言う事が本当だとすれば、彼女はかなり危ない状態だった、と私は思うのですが。」
「うん。私も、そう思う。メリーサが私を呼ぼうとしてたのかもしれない。」
 テノールがメリーサの手に渡ってしまえば大変だ。今まで以上にテノールを見張っておく必要があるだろう。
「……」
 オレはローディンを見る。彼は頬に手を当てて何か考えているようだ。彼が考えているのは、恐らく……
「……お前の時と一緒だなぁ?」
 からかうようにローディンに声をかける。彼は「そうだな」と頷いた。
「何かあったのか?」
 レグは尋ねる。ローディンはまたしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「私も、小さい頃同じような事をしていたそうです。全く記憶はありませんがね。」
「言っとくが大変だったんだからな。夜、『神様が呼んでる』とか言って家ん中うろついたり、『神様が言ったんだ』って言って一晩中絵描いてたり……。それで朝になったら何事も無かったかのように振る舞いやがってよぉ。」
 今でも鮮明に思い出せる。「神様が言ったのと違う」とか「神様、こうですか」とか言いながら虚ろな目で絵を描き続けた少年の姿が……。
「今はそうなる事は滅多にないのですが。……ただ、絶対に無いと言いきれないのがつらいですねぇ。いつまたこうなるやら……。」
「今やられたらマジで困るわ。やめてくれよローディンちゃん。」
 「努力はする」とローディンが言うのを聞きながら、オレはレグ達に目を向ける。
「ま、とにかくアレだ。ちゃんとお嬢ちゃんの事を見張っとく必要があるってコトだな。出番だぜ、騎士様。ちゃんとお嬢様を守ってやんな。」
 レグに向かってにぃっと笑いかける。
「言われなくても分かっている」
 彼は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。